大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和45年(行ウ)50号 判決 1973年3月29日

東京都江東区亀戸三-六一-一一

原告

斉藤信男

訴訟代理人弁護士

中山嘉兵衛

東京都江東区亀戸二-一七-八

被告

江東東税務署長

佐藤保夫

指定代理人

増山宏

田井幸男

内海一男

鈴木祺一

薄益雄

木谷孟

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者双方の求めた裁判

(原告)

「被告が昭和四三年六月四日付でした原告の昭和四一年分贈与税の決定および無申告加算税の賦課決定は、無効であることを確認する。被告が昭和四四年一一月一〇日別紙物件目録記載(1)の財産に対してした差押えおよび昭和四五年六月一二日同目録記載(2)ないし(5)の財産に対してした差押えは、いずれも無効であることを確認する。」との判決

(被告)

主文一項と同旨の判決

第二当事者双方の主張

一  原告の請求の原因

1  被告は、原告が昭和四一年中に西村喜久枝から借地上に存する東京都江東区亀戸三丁目二五一番地所在、家屋番号二五一番の二木造セメント瓦亜鉛メツキ鋼板交葺平家建居宅旅館一棟床面積一一三・六七平方メートル(以下「本件建物」という。)を贈与により取得したとして、原告に対し昭和四三年六月四日付で昭和四一年分贈与税一五一万二、〇〇〇円の決定および無申告加算税一五万一、二〇〇円の賦課決定(以下これらを「本件課税処分」という。)をし、さらに、原告が、右賦課にかかる税額を納付しないとして、その徴収のため、昭和四四年一一月一〇日別紙物件目録記載(1)の財産を、昭和四五年六月一二日同目録記載(2)ないし(5)の財産をそれぞれ差し押えた。(以下これらを「本件差押処分」という。)

2  しかしながら、原告は、本件建物をその借地権とともに喜久枝から昭和二八年一一月二九日代金一五〇万円で買い受けた(その後昭和三八年一二月三〇日に代金を三〇〇万円に値上げすることを約した。)ものであつて、その所有権移転登記が昭和四一年一二月二日完了したものであるのにすぎない。

そして、原告は、右売買代金のうち六六万円を次のとおり支払つた。すなわち、原告は、喜久枝と合意のうえ、売買代金の支払いに代えて(ア)昭和二八年一一月乙坂工務店に対し、喜久枝が負担していた建築請負代金二〇万円を、(イ)昭和三九年三月二三日矢崎広に対し、喜久枝が負担していた滞納地代四〇万円をそれぞれ弁済し、(ウ)昭和四一年一二月九日から同月一四日まで喜久枝に対し、毎日一万円宛を支払つたのである。したがつて、残代金は二三四万円であるが、右のように、原告が本件建物を対価を支払つて取得した事実は客観的に明らかであつて、昭和四一年中に贈与を受けたことはないのであるから、同年中に原告が喜久枝から本件建物を贈与されたものであるとしてされた本件課税処分には重大かつ明白な瑕疵があり、無効である。したがつて、これに基づく本件差押処分も当然無効である。

よつて、右各処分はいずれも無効であることの確認を求める。

3  被告主張の事実のうち、原告と喜久枝とが内縁関係にあることおよび原告が本件課税処分に対し異議申立期間内に異議の申立てをしなかつたことは、いずれも認める。

二  被告の答弁および主張

1  請求原因1の事実および同2のうち本件建物につき原告主張の日時に原告のため所有権移転登記がされている事実は認めるが、その余の原告の主張は、すべて争う。

2  本件課税処分および差押処分の根拠は、次のとおりである。

原告は、昭和四一年一二月二日、本件建物につき同年一一月一五日付売買を原因として所有権移転登記を経由したので、被告が、原告の本件建物の取得原因および取得価額について調査したところ、原告と喜久枝とはかねてから内縁関係にあり、その間には、有償譲渡の事実が認められなかつたので、被告は、原告が同年中に贈与により本件建物を取得したものと認め、昭和四三年六月四日付で、原告の昭和四一年分贈与税および無申告加算税を次のような計算によつて決定および賦課決定し、同通知書を原告に送達したが、原告は、これに対する異議申立期間内に異議の申立てをしなかつたので、右決定は昭和四三年七月六日頃確定した。

課税価格

建物 四四万四、六〇〇円

借地権 四二七万円

合計 四七一万四、六〇〇円

税額

贈与税 一五一万二、〇〇〇円

無申告加算税 一五万一、二〇〇円

ところで、原告は、右決定および賦課決定にかかる贈与税および無申告加算税を納期限である同年七月四日までに納付しなかつたので、被告は同年九月一三日原告に対し督促した。しかし、原告は、同年一一月一四日二万円を納付したのみで、残額の納付をしないので、被告は昭和四四年一一月一〇日別紙物件目録記載(1)の財産を、昭和四五年六月一二日同目録記載(2)ないし(5)の財産をそれぞれ差し押え、原告に対してその旨の差押書を送達したものである。

以上のとおり、本件課税処分には何らの瑕疵もなく、また、これに基づき、かつ、右に述べたとおり法定の手続にしたがつてした本件差押処分にも何らの瑕疵は存在せず、すべて適法な処分であるから、原告の本訴請求はいずれも理由がない。

第三証拠

原告は、甲第一ないし第三号証を提出し、乙第一号証の成立は不知、乙第二号証の成立を認めると述べた。

被告は、乙第一、第二号証を提出し、甲第一号証中喜久枝作成名義の部分の成立を否認し、同号証中その余の部分および甲第二号証の成立を認める。甲第三号証の成立は不知と述べた。

理由

一  請求原因1の事実(本件課税処分および差押処分の経緯)ならびに同2のうち原告のため本件建物につき昭和四一年一二月二日所有権移転登記がされた事実は、当事者間に争いがない。

二  原告は、本件建物を昭和二八年一一月二九日喜久枝から売買により取得したものであるのに、これを昭和四一年中に贈与により取得したものであると誤認した点において、本件課税処分には重大な瑕疵があり、かつ、原告が右の売買代金を支払つた事実は客観的に明らかであつたから、その瑕疵は明白であつて本件課税処分は無効であると主張する。

しかしながら、原告の主張する売買代金支払いの具体的内容は、代金総額のうちわずか五分の一余りにすぎない六六万円を、昭和二八年一一月二〇万円、昭和三九年三月四〇万円、いずれも喜久枝の債権者二名に対する債務を原告が弁済することによつて支払つたり、また、昭和四一年一二月中、六日間にわたり毎日一万円宛喜久枝に支払つたというのであり、しかも、原告と喜久枝が内縁関係にあることは原告も認めるところであるから、このような関係にある者の間において時期的にも右のようにきわめて散発的にされた支払いの事実の存在およびその趣旨を知ることが何人にも容易なことであるとは、とうてい首肯し難いものといわなければならない。その他、原告は、本件建物の取得が売買によるものであつて、本件課税処分の瑕疵が外形上明白であるとする何らの具体的事由も主張しない。

そうすると、その余の点について判断するまでもなく、本件課税処分が無効であることの確認を求める原告の請求は、その主張自体からみて理由がないといわなければならない。

三  したがつて、本件課税処分が無効であることを前提として本件差押処分の無効確認を求める請求も失当というほかない(かりに、これを取消しの請求と解する余地があるとしても、原告は、本件差押処分自体の取消事由となるべき何らの違法も主張していないから、所詮失当たるを免れない)。

四  よつて、原告の本訴請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 杉山克彦 裁判官 青山正明 裁判官 石川善則)

別紙

物件目録

(1) 所在 江東区亀戸六丁目五六番地九

家屋番号 五六番九の一

種類 店舗兼居宅

構造 木造亜鉛メツキ鋼板葺二階建

床面積 一階 一五・〇四平方メートル(四・五五坪)

二階 一九・一〇平方メートル(五・七八坪)

のうち原告の持分四分の一

(2) 所在 江東区亀戸六丁目五六番地九

家屋番号 五六番九の二

種類 居宅

構造 木造亜鉛メツキ鋼板葺二階建

床面積 一階 三九・六六平方メートル(一二坪)

二階 四七・九九平方メートル(一四・五二坪)

のうち原告の持分四分の一

(3) 所在 江東区亀戸六丁目五六番地九

家屋番号 五六番九の三

種類 店舗兼居宅

構造 木造亜鉛メツキ鋼板葺二階建

床面積 一階 二三・九九平方メートル(七・二六坪)

二階 二三・九九平方メートル(七・二六坪)

のうち原告の持分四分の一

(4) 所在 江東区亀戸六丁目五六番地九

家屋番号 五六番九の四

種類 店舗兼居宅

構造 木造亜鉛メツキ鋼板葺二階建

床面積 一階 九・二五平方メートル(二・八坪)

二階 一一・四〇平方メートル(三・四五坪)

のうち原告の持分四分の一

(5) 所在 江東区亀戸六丁目

地番 五六番九

地目 宅地

地積 一七九・三〇平方メートル

のうち原告の持分四分の一

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例